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アメリカ在住の日本人がいろいろ書き散らす

抗精神病薬「エビリファイ(アリピプラゾール)」を息子が飲んだ体験記

「私は何者かに拉致誘拐された。
常に目隠しされ、手錠され、あちこち連れ回される。
必死に場所や状況を理解しようとするが、何が起こっているのかさっぱりわからない。
やつらの話している言語も、まったく未知の言語で意味をなさない。
やつらが何か私にひどいことをしようとしている感じがする。
不安だ。とにかく恐ろしい。怒りも感じる。
なぜ私をこんな目にあわせるのだ!
私は、絶対にやつらの思い通りにはならない。絶対に。」

 上記は、私が想像する息子の内面です。

 私の息子は重度の自閉症で、もう12歳になるのに1歳くらいのコミュニケーション能力しかないので、実際のところは本人にしかわかりませんが、おそらく上記のような感じだと思います。
 10歳くらいまでは、ぼんやりとおとなしく、人に手をあげるなんて考えられない子だったのだけど、ここ一年くらいは常に不機嫌で怒ってる感じ。自傷・他害行為もひどく、手がつけられないほど暴れるようになってしまった。でも、おそらく本人は「何もわからない、何もできない」という自分の状況に怒り・不安・恐怖心を真剣に感じていて、必死に暴れているのだと思う。

人の皮膚に爪を立てる。お世話の時、手袋は必需品。

 一緒に暮らしてお世話している私は、傷だらけ・あざだらけなんだけど、しんどい時は、前述したように「知らん国のテロリストに誘拐されて殺されるかも」という状況に自分がいることを想像する。そりゃあ暴れるよなあ・・・と息子に対して、少しやさしい気持ちになれるから。

 しかし、私や夫は親だから仕方ないとして、ほかの子供たち、つまりきょうだいたちにも暴力をふるうのはやはり許せず、気持ちの持って行き場が無いです。

「私の子供に暴力をふるって傷つけるなんて絶対許さない・・・あれ、でも暴力ふるってんのも私の子か・・・うーん・・・」

みたいな・・・。

 そして、学校で先生や補助の方に噛みついたり掴みかかったりしているというのも耐えられない。

「薬は飲ませないんですか?」

 本当は、そういうことは言ってはいけないはずの立場の学校側までがそう言って来た。

 で、昨年の夏、本当にあまりにも息子の状態がひどく、このまま一緒に暮らすのはもう無理という段階に達したと感じた。ついに、「我が子を精神科に連れて行って抗精神病薬を飲ませる」という親であれば一番したくないことの一つをすることに踏み切った。

 もうね・・・ホラーでしたよ。薬を飲ませ始めた直後は。

 前の日まで手がつけられないくらい元気に襲い掛かって来ていた息子が、ぼけーーーーーーーとソファに座って動かない。口は半開き。よだれ。目はうつろ。ご飯も食べない。起きていることができないのか、すぐ横になって眠ってしまう。廃人・・・その言葉が頭をよぎりました。抗精神病薬ってすごいんだな、本当に人間をこういうふうに変えられるんだな、とあまりの激烈な変化にぞっとし、そしてそんな薬を飲まされているということすらおそらく知る由も無い我が子に勝手に薬を盛っている(クッキーにはさんで食べさせていた)自分への嫌悪に苦しみました。医者に電話をかけて、「もうできません、あんな息子は見てられません、やっぱり私には無理です」と泣きついたっけ。

 息子に処方された薬は、大塚製薬さんが開発した「エビリファイ」のジェネリック「アリピプラゾール」という薬です。実は、この薬の前に3種類くらいほかの薬も試していました。最初は、トラゾドン(眠くなるだけで効果無し)→リスパダール(廃人症状にビビッて3日でやめてしまった)→コンサータ(かつてないくらい暴力的になった)、そしてアリピプラゾールにたどりついたわけです。まさに人体実験のようのですが、息子は無発語で、薬がどう効いているのかを言葉にする能力がないため、いろんな薬を与えて反応を見るしかないわけです。そして、上記の通り、いろんな薬を親の私がきちんと続けられていないという事で、今度という今度はちゃんとしどうした通りに投薬しなかったらもう薬は処方できない、と医者に警告まで受けていました。ちゃんとやらないとお医者さんに見放されてしまう。だから、廃人と化した息子を前に、エビリファイもほかの薬同様やめてしまおうかと思ったけれど、結局医者に相談して量を調整してもらって続けたわけです。

 で、その後どうなったかというと・・・

 その頃のブログの下書きには、「向精神薬よありがとう、大塚製薬すごい、さすが日本の製薬会社」みたいなエントリが残ってます。そうなんですよ、廃人と化していた2週間くらいを過ぎて、素晴らしく息子が穏やかになったんです。無事、中学校にも通い始めた(私の住む学区は日本で言う所の小6から中学校)。すべて順調で、私は突然暇になり、パートの仕事まで始められて、やっと未来に希望が持てるようになりました。夫と「こんなに効くなら、もっと早くに始めればよかったね」と喜びあったことを覚えています。彼も、すごく辛かったと思うから。

 しかし。しかしです。

 そんなうまい話があるわけない。

 それだったら、世界の自閉症の人みんなエビリファイ使うって。

 いやー、あのブログの下書き、公開しなくて本当によかったよ。

 二転三転して残念なんだけど・・・。
 
 昨年8月に服薬を始めた息子ですが、約9か月経った今、一番ひどかった時期の状態に徐々に徐々に戻って行っています。順調だったのは、最初の2か月くらいだけかな。年が明けて2022年になった頃からはっきりと、薬の効き目がどんどん弱くなってきているのを感じるように。体重も服薬後の3か月くらいで9キロも増えて、体が動かしづらそうだし、常にお腹がすいていて好きなだけ食べ物にアクセスさせてもらえないことで、ストレスでまた当たり散らす。こうなってくると、薬の効能より副作用(空腹感、体重増加、倦怠感)のほうがでかいんじゃないかと思ってしまう。

「もう効き目は無いと思います。自傷行為も他害行為もひどいです。この薬をやめるか、他の薬にすることはできませんか。こういう薬を勝手にやめるのは危険と聞いたので、減らす方法を知りたいです。」

と医者に言っても、効きてないなら量を増やしましょうとどんどん量を増やされる。もう、もう本当に怖いです。アメリカって、ほんと簡単に薬に頼るから。

 というわけで、私自身が飲んでいるわけではないですが、我が子がエビリファイ(アリピプラゾール)を服用した体験をまとめると、

「大変優秀な薬。だけど副作用も強い。一時的に短期間だけ症状を緩和するにはいいかもしれない。」

という感じです。もし、「どうしてもどうしても暴力をふるわれる状況からのお休みが欲しい」という状況の自閉症者のご家族をお持ちの方は、もしかした緊急使用的な使い方ができるかも。

 ただ、この手の薬って、本当に人が違えば効果も変わってくるから、こんな体験記に意味は無いのか??

 もっと根本的に他害行為や自傷行為のある自閉症者のOQLを向上させる医学的な方法は無いものか・・・。とにかく、息子が幸せそうに見えないのが辛い。どんなに知的に遅れがあってもなんでもいいから、もう少し幸福感が感じられる時間を増やしてあげたい、それだけなんだけど・・・。

 もう・・・やっぱ医療用マリファナ? せっかくアメリカにいるんだし。医療用マリファナ合法州に住んでるんだし。色々調べて医者にもプッシュしてみよう。うまくいったら、またここに書きます。

 自閉症者と共に生きる皆さん、ご自身の心身の健康を大切に、お互い少しでも楽しいことを探してぼちぼちやっていきましょう~