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アメリカ在住の日本人がいろいろ書き散らす

”OK, Boomer!" (「はいはい、おじさん」)

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写真は本文とは全く関係ありません。でも、鏡みたいできれいですよね。

 Boomer(ブーマー)とは、ベビー・ブーマー、つまり1946年~1964年生まれ、2021年この記事を書いている時点で、57歳~75歳の人のこと。
 
 「OK, Boomer!」

 これは、アメリカで若い世代が、歳をとって時代に合わないことを言ったりしたりしているおじさんおばさんたちをバカにしてあきれ顔で言う言葉。

「昔はテレビすら一日30分までとか言われていたんだぞ! 今の子供たちのテクノロジーへの依存は」
「OK, Boomer!」

「その髪型は、ナウなヤングにバカうけでトレンディなのか?」
「OK, Boomer!」

「最近のあの・・・なんだっけ、ゲイとかトランスジェンダーとかああいうわけのわからないのはなんで多いんだ?」
「OK, Boomer!」

 このフレーズ、子供が親に言い返したりとか、ネットで世代間ギャップをバカにするミームにくっつけたり、Tシャツやグッズまで出たり、なんかはやっちゃってる。時代遅れのイタイ年寄りを「ハイハイ、わかったわかった」とフンと鼻で笑う必殺フレーズ・・・多分、言われた方は大半が「?」なんだろうけど。

 ブーマーは経済の繁栄を享受して地球を汚しまくって若い世代に後始末をさせている・・・と感じる空気はアメリカの若い世代にももちろんあって、日本で若い世代が「なんだか貧乏くじ引いた・・・?」と逃げ切り世代を苦々しく思うのと似ている。

 まあ、若者が年寄りをバカにするのはいつの時代にもあって、今のティーンネイジャー(ジェネレーションZ、Z世代と呼ばれている)だって、50年後くらいには、「OK, Zoomer!」って言われるんだろうけど。

 で、そんな「OK, Boomer」なノリでふざけているFacebookのとあるグループが最近ちょっと話題になった。
 グループの名前は、「A car club where everyone acts like boomers」(ブーマーのようにふるまう車好きのクラブ、みたいな感じ?)。 20代を中心とする車好きのメンバーが、わざとブーマーっぽいポストで車に関する話題を語ろう、というグループで、グループ創始者によると「完全におふざけ、ジョーク、荒らし、ひまつぶしのグループ」。

 彼らによると、ブーマーたちはテクノロジーを使いこなすスキルに欠けるので、ブーマーのFacebookポストはなんかヘンらしい。わかる気がする。

・キャップス・ロックを触ってしまうのか、やたら大文字が多い。
・つづりのミスが多い。
・変なところにスペースが入ったり、「.」が「,」になっていたり。
・やたら奥さんを下げたり悪口を書いたり
・中古品売買のページに変なものを売っている。しかも商品にあんまり関係無い自撮りとか家族の写真とかつけたりして。

 上記のような感じがBoomerっぽさらしい。それをいじって面白がっている。グループの概要説明文のところがそもそもわざと
「thank u f or your sevis
keep posts CARR RELATED!!」
みたいに書いてある。バカにしてる(sevis=service, CARR=car)。おじさんおばさんたちのコンピューター・リテラシーの低さを真似しながら、好きな車のことを語ったり、ブーマーたちが掲載した中古品売買のポストに変なコメントつけたり・・・そんなくだらないことをよってたかってやっている。
 
 そんなグループが、Facebookの売ります買います欄にあったひとつの出品広告に目を留めた。
「中古のエア・コンプレッサー売ります」
という広告なのに、なぜかでかでかと出品者の顔写真が・・・プッ、これはいじられるパターン・・・と思いきや、このポストにはバックストーリーがあった。

 エア・コンプレッサーを出品したのはゲイリー・ライダーさんというブーマー。
 溶接工だったライダーさんは、12年前の仕事での事故で右半身に大けがを負い、それ以来障碍者の身。なんとか杖をついて歩けるものの、長年の溶接の仕事を通じて化学物質を吸い込みすぎたことも相まって、痛み止めや体調回復のために処方された薬はまさにカクテル状態ですごい数に上っていた。結果、肝臓を壊し、医師からは生きるためには肝臓の移植しかないと告げられる。でもそれには四万ドル(日本円で約400万円)が要る・・・。
 
 クッキーを売ったりヤードセールをしたり、家族がファンドレイジングで集められたのはたったの20万円。娘さんがGofundMeで寄付を募ったものの、二か月で集まったのはたったの2万円。ゲイリーさんは、売れるものはなんでも売った。ブーマーいじりの若者たちの目に留まったエア・コンプレッサーもそのひとつだった。ゲイリーさん曰く、

「私はこれ以上ないくらい田舎の労働者なんだ。古い小さな炭鉱の街に住んでいる。家も150万円の価値しかない。その家だってなんだって売るつもりだった。」

 そんな背景を知ったFacebookのおふざけグループの若者たちの反応は・・・

「OK, Boomer!



手伝うよ」

 そしてこんなポストが飛び交った。

「こいつが肝臓と新しいエア・コンプレッサーもらえるように助けてやろう。1ドルでも10ドルでもあげようよ。俺らの人数ならいけるんじゃね」

 結果、グループのメンバーたちはゲイリーさんのGoFundmeのサイトに殺到し、目標金額にはあっという間に達成した。
 ゲイリーさんのGoFundmeのページのコメント欄は、ブーマーいじりの若者たちによる大文字と綴り間違いだらけのブーマー風の励ましメッセージで溢れている。
 日本語でやるとすると・・・

「愚妻がこういった寄付をよく思わないため。小生。山口桃恵さんのブロマイドを売却し寄付金としました. 全快をいのる;;」
「寄付をすませましたすがすがしい気持ちで五木ひろしさんのシーデーをきいております」

みたいな・・・? うーん、意外と難しい・・・?

 ゲイリーさんは、説明されるまでそのノリすらわからなかった。

「ちょっとふざけたりしているのもあるけど、何も悪いことじゃない。そこにたくさんの愛があるのを感じるよ」

あのエア・コンプレッサーはどうなったかというと・・・?

「まだ持っている。手放すつもりもない。世界一素晴らしいエア・コンプレッサーだよ。」

参考記事:
Boomer Trying To Buy New Liver Gets Donation From FB Joke Group
Facebook Group Helps Man Raise Enough Money For Liver Transplant : NPR
他、多数