WRITE, DREAM, LIVE

アメリカ在住の日本人がいろいろ書き散らす

Human Animal (人間動物)

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Lil Baby 『My Turn』

まるで人間の姿をした動物みたいになるんだ。
首輪こそされていないけど、手には手錠をされるし。
犬用の檻じゃなくて人間用の檻に入れられる。
餌の時間に餌をもらって、食べろと言われた時間に食べる。
犬でいるのとほとんど同じだろ。
(リル・ベイビー)

You are becoming like a human animal.
You don't have a leash on your neck, but you got handcuffs on your wrists.
You're not in a dog cage but you're in a human cage.
They feed you when they want to feed you. You eat when they tell you to eat.
It's almost like being a dog.
(by Lil Baby)

 今朝、NPR(National Public Radio)の朝の番組でヒップ・ホップ界のライジング・スター、リル・ベイビー(Lil Baby)のインタビューを聞きました。

www.npr.org

 NPRって、日本で言うNHKみたいな放送局でちょっとお堅い感じなので真面目なインタビューになったのかもしれませんが、リル・ベイビーの言葉遣いが丁寧だったことが印象的。相槌を打つ時も、「ああ、そうだよ」ではなく、きちんと「はい、そうです(Yes, Ma’am)」と何度も言っていた。

 現在25歳のリル・ベイビーはデビューしてまだ四年も経たない新星。でも、2020年10月現在ビルボードのHot100に47曲以上を送り込んでいて、これはポール・マッカートニーやプリンスと言った大御所に並ぶ記録だそう。

 そんな彼も、ティーンネイジャーの頃は生活していくためにアトランタでドラッグを売っていた。「他に選択肢が無かった」。そして19歳で実刑判決を受け、二年の刑務所生活を送る。冒頭の彼の言葉は、その時のことを語った部分。刑務所のシステムは人間を良くするところじゃない、自分にとってはよりひどい人間、動物同然になる場所だった、とのこと。

 アメリカの刑務所が更生施設として機能していないという議論は今に始まったわけではなくずっと言われていることではあるけれど、こういうまあ言ってみれば「前科者」から才能があれば一気にあがってこられるシステムはあるわけで、アメリカだなあと感じる。

 リル・ベイビーは刑務所を出た時点ではプロのミュージシャンとしての経験はゼロだったわけだけど、皮肉なことにドラッグを売りさばいていたことで音楽制作のスタジオにコネがあった。才能もあるんだろうけど、短期間であがって来られたのはこの辺の事情も絡んでいるようです。

 でも、音楽を始めてたったの四年・・・というわけではなく、もちろんそれはもうずっと前から詩を書いたり、長い時間をかけて煮詰めてきたポテンシャルというものがあるわけで、プロのキャリアが四年=ラップを始めて四年では断じて無いそう。
 
 他にも言葉を先に考えて書いてからラップするのか、という質問には「先にビートを集める、ほとんど書かない」。成功したと思うか、との問いに対する以下のやり取りも生々しく興味深かった。

「百億稼いだら、成功したって感じるかな」
「ということは、最終的には、あなたは本当にすごくお金を稼ぎたいのね」
「そうですね」
"When I get hundred million, I feel like I made it."
"So, at the end of the day, you really wanna do make a money."
"Yes, Ma'am."

 
 2020年、ブラック・ライブズ・マターのムーブメントともうまく結びついて売れに売れているリル・ベイビー。私はヒップホップのことはあまりよくわからないのだけど、あまり息の長い成功を手にしている人がいないように見えるので(音楽界はそういうものなのか?)、今後に注目。ストリートから出てきた才能として、長く活躍してほしい。