「ジ・アメージング・ランディ」を知っていますか?
手品師は世界でもっとも誠実な人々だ。
あなたを騙しますよ、と言った後で騙してるんだから。
(ジェイムズ・ランディ、映画『An Honest Liar』より)Magicians are the most honest people in the world.
They tell you they are gonna fool you, and then they do it.
(James Randi, from An Honest Liar)
先月末(2020年10月)、SNSで私の好きなアメリカの作家や著名人たちがある方の訃報をこぞって話題にしているのを目にした。
カナダ出身の奇術師・疑似科学研究家、ジェイムズ・ランディさんが92歳で他界されたのです。
誰・・・? という感じだったのですが、50代~60代の方が「ランディ好きだったなあ、素晴らしい人がまた一人逝った」とその死を惜しんでおられ、中でも、コメディ系の奇術師コンビのペン&テラー(Penn & Teller)のペン・ジレットのあまりの悲しみ方に興味が湧いた。
ペン&テラーも、これまた日本では「誰?」だと思うんだけど、ラスベガスのショーで有名な手品師のコンビで、冠のテレビ番組まである。
この動画で切断された人体が入った箱を踊りながら運んでいる大男のほうがペン・ジレット。種明かしはマジシャンの間でタブーなはずで、こんなの見せちゃっていいのかなとちょっと心配だけど、面白いので是非観て欲しい。
このペン・ジレットが、前述のジェイムズ・ランディが亡くなった時、Twitterに連投していたつぶやきで、惜しみなくストレートな愛と尊敬と悲しみを表現していてすごかった。写真と言葉から溢れる愛に打たれるというか。
以下、テレビ番組の収録中に訃報を知ってしまったペン・ジレットの連投ツイート。
我々のインスピレーション、恩師、親友、真にアメージングだったジェイムズ・ランディよ、さようなら。いつまでもあなたが大好きです。
ランディと過ごした最後の日の写真からもう一枚。
このあと何回か話だけはしたけどね。
僕のインスピレーション、ヒーロー、恩師、友よ。
これからの残りの一生、彼に語りかけるよ。
そうしたら彼の思い出が答えてくれるだろう。
充分なだけ知恵を授かったとは言えないけれど、僕は多くを授かった。
僕とランディの最後の一枚だ。
涙で文字が打てないよ。こんなんじゃテレビの収録が辛い。
ランディ、あなたが大好きだ。
あなたが我々を発明したんだ。
ランディと一緒にいるのは楽しかったな。
僕の一番愛に満ち素晴らしかった時間のうちのひとつだ。動画:ジェイムズ・ランディとのディナー
(手品が)クラシックだけどスムーズでしょう?
Randi was such fun to be around. Some of my greatest most love filled times.https://t.co/iLq7SMTP0G
— Penn Jillette (@pennjillette) October 21, 2020
ランディ、ランディ、ランディ。
こんなにあなたに会いたいなんてアメージングだよ。
この気持ちが収まるとは思えないなあ。ランディ。
ランディと僕は体の大きさは違うけど、心は同じだ。
・・・・・・などなど、このほかにも、ジェイムズ・ランディの楽しい写真や思い出を連投。ペンにもランディにも会ったことないんだけど、なんだか私まで悲しくなってしまった。
ペン・ジレットは、相方のテラーと交代で涙で崩れたメイクを直してもらいながらなんとか収録を終えた様子。
こんなに誰かを敬愛できるってすごい。自分の親でもこんなふうになれないかも?
ペンのつぶやきを読んだ人たちも、あまりの悲しみようを心配しつつも、ランディとどこそこで一緒になった、というような思い出話を披露。皆、そろって「面白い人だった」「すごい人だった」と振り返っている。
訃報を聞いて残念。
子供の頃、ランディが私の街に住んでいた。
彼の家にトリック・オア・トリートに行くのは一大イベントだった。
ある年、彼が玄関に出てきてくれた。
私は(お菓子もらうために)バッグを開いた。
ランディは、キャンディ・バーを宙に放って寄こした。そしてそれは消えちゃったの。
今日になっても、あれはどこに行っちゃったのかなあって不思議。
皆さんにここまで愛され尊敬されていたジェイムズ・ランディとはいかなる人なのか? 調べてみたのですが・・・・・・こんな面白い人がいたとは!!
ジェイムズ・ランディさんはただの手品師ではなく、インチキ・いかさまを暴く「懐疑派」の父のような方なのですね。ドラマ『トリック』でいうと奈緒子さん(実は観たことないけど)、『X-ファイル』でいうとスカリー。科学第一主義。だから、科学誌「Nature」のサイトにまで訃報が取り上げられている。
www.nature.com
自身が様々なトリックで観客の目を欺くプロであることから、自称霊能者や自称超能力者、「奇跡のなんとか」やら疑似科学で大衆から金を儲けるやつらのやり口を見抜くことができ、そのインチキを生涯をかけて暴いてばっさばっさとやっつけた。
超常現象や疑似科学に対して科学的な調査・批判を行う非営利団体CSICOP(サイコップ)の創立メンバー。
その華麗なスレイヤーぶりは、ランディさんのWikipediaページにうまくまとめられていて、これまたランディさんを敬愛する方が書いたのだろうという愛を感じる。
日本で超能力ブームだのオカルトブームだのの火付け役になったと言われているスプーン曲げのユリ・ゲラー(英語だとウリ・ゲラー)もランディさんに目の敵にされていたらしい。Wikipediaのユリ・ゲラーのページによると、
また1973年からアメリカやイギリスのテレビ番組に登場するようになるが、ベテランの奇術師であるジェームス・ランディが同席する席で彼の超能力が発揮されることはなかった。
(ユリ・ゲラー - Wikipedia)
ユリ・ゲラー・・・それじゃ「いんちきでーす!」と認めているようなものでは・・・。
ランディさんの生涯をテーマにしたドキュメンタリー映画『An Honest Liar』まで観てしまった。(この映画、残念ながら日本語版が出ていない・・・)
なんというか観終わって非常に複雑な心境になるドキュメンタリー。なんとなく彼の人生や今のアメリカを思って、暗澹たる気持ちになった。
映画によると、カナダで生まれ育ったランディさんはサーカスでプロの手品師によるショーを初めて観て、女性を空中浮遊させるマジックに打ちのめされ、その時点で「あれをやる。プロの手品師になる。」と決めて17歳で家を出て、それから二度と戻らなかったとか。
つまり、高校中退。「Self-educated」と言っているので、学んだことはすべて独学ということになる。
He loves magic.
He spent his whole life as a performer, as a magician.
So he really resents anyone applying the techniques of magic for any purpose other than entertainment.ランディはマジックを愛していた。
生涯に渡って演者として、手品師として過ごした。
だから、彼は手品のテクニックを誰かを楽しませる以外の目的で使う人間に怒りを感じたんだ。
得意分野はフーディニのような脱出技らしく、映画にも小柄のランディさんが宙づりになりながら危険な脱出をしてみせる映像が多数登場。しかし、初期には読心術系のマジックも多く行っていたようで、有名になるにつれ、街で「お金を払うから家族(あるいは友人)の誰々の心を探ってくれないか」というような依頼を受けるようになる。
そこでランディさんは驚きあきれる。
「おいおい、なんでみんなマジで信じてるんだよ!!」
自分でそういうショーやっておいてそりゃないだろ、と思うけれど、彼の中では怒りと恐怖と疑問が湧く。
「これはエンターテイメントなのに。人は簡単に信じてしまう、人など簡単に騙せる。これを悪用したらなんでもできてしまうではないか」
そして、脱出マジックの際に骨を折って失敗したのを機に55歳で危険を伴うショーの第一線から引退、その後はDebunker(いかさまの暴露人)としてその目を光らすことになった。
映画では、ユリ・ゲラー、ピーター・ポポフ、スタンフォード大の超能力実験などのインチキを次々に暴いていて痛快なのだけど、その後が痛々しい。インチキを暴いても、騙されていた人たちに感謝されるどころか嫌われている。
特にピーター・ポポフの一件が虚しい。
ポポフは、その時代では有名だったキリスト教のテレビ伝道師で、大々的な集会を行い、その参加者から選んだ誰かの名前や住所、悩み(たいていは身体的な不調)を言い当て、叫び声を上げながら気合いの頭突きみたいなのをしてその悩みを取り除いてしまう奇跡の人。
もう映像を見ているだけで怖い。ヤバい。ポポフに気合い入れられた人が「おお、おお、治った~」とか涙を流しながら会場を駆け回ったり、感激のあまりぶっ倒れたり、これぞ「カルト」。
読書ブログのほうで、元FBIのプロファイラーが書いた本を読んだ時に「アメリカってどうしてこんなに連続猟奇殺人犯が多いんだろうか」という長年の疑問を書いたけど、カルト集団の多さにも同じような疑問が湧く。どの国にも地域にもこういうカルトはあるんだろうけど、アメリカほど後を絶たない国は無いのでは?? 資本主義と宗教国家が結びついた結果?? 原因が知りたい。ありとあらゆるカルト集団がはびこっている国と感じる。
で、ポポフのことに話を戻すと、ランディはポポフのこのパフォーマンスが病院に行くべき人々が行くのをやめる原因になっている、人々を危険にさらしていて悪質だし金も巻き上げている、と重く見て、ポポフの「奇跡」のインチキを弟子たちを使って調査し簡単に見破る。無線を使ったたいしたことないトリックとは言え、証拠をばっちり録音して有名なテレビのトークショーで大暴露!! はい、ポポフ終了~・・・と思ったのに、ポポフの信者は減ったとは言えその後も後を絶たなかった。今度は「奇跡の水」販売というもっとずさんな詐欺でポポフは儲けるように。
どんなに頑張って真実を教えても、人は信じたいものを信じる。科学や証拠より、「そうであってほしい」「そのほうがおもしろいから」、そういった感覚に従う。ランディは、そういった大衆に嫌われてしまった。
なんかこのへんがどうも、どう説得されても「それはフェイクニュース」「そっちがウソだから」と言って耳を貸さない最近のアメリカの陰謀説支持者を彷彿とさせる。
きっと論理的に考えるより楽で幸せなんだろう。真実ってたいてい退屈でつまらないし、辛いものだから。それに皆、物質的に満たされて刺激に飢えているのかも。信じたいものを信じることで命やお金を失っても、その人がいいならそれでいいのかもしれない。
・・・・・・というふうに、
「私は騙されないし」
「私は関係無いから」
と考える、上から目線で騙されている人を見ている私のような人間に向けたと思われるメッセージで映画は終わっています。
I'm a magician.
I know how to deceive people, and I know how to recognize when people are being deceived.私はマジシャンだ。
どうやって人を騙すか、どうやって人が騙されている時を見分けるかを知っている。I can cheat you countless different ways and you won't know.
You won't catch me.あなたを数えきれないやり方で欺けるし、あなたにはそれがわからないだろう。
私を捕らえることなどできない。Some people cannot believe that a magician can fool them in such a way that they can't figure it out.
But magicians can and magicians do.自分には見抜けない方法でマジシャンが自分を騙すことができるのいうのを信じられない人もいる。
でも、マジシャンはそうできるし、そうしている。Don't be too sure of yourself.
No matter how smart or well-educated you are, you can be deceived.あまり自信を持たないことだ。
どんなに賢くても良い教育を受けていても、あなただって騙されうるのだ。
こちらは、ジェイムズ・ランディのTEDのプレゼン。ホメオパシーや交霊術の批判が中心で日本語字幕もついているけれど、映像や画像を一切使わずランディのスピーチだけでちょっと単調で残念。簡単なマジックを交えたもっと面白いプレゼンにできそうなのに。
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